『地面師たち』を見た
ハリソン山中は悪者だった。ハリソン山中はどんな興味深い哲学を見せてくれるのかと、ハリソン山中の信念とは何かと、期待を煽るように作られた映像は、むしろ落胆を増幅させた。
穏やかで冷酷な狂気の男は、単に穏やかで、冷酷で、狂気であるだけだった。
底知れなさを見せていた男が、単に趣味が悪い、中途半端に合理的なことばかりする、狂人に憧れた小物だとわかっていくのは、自殺だとか自己実現だとかは子供のものであると、生きることに何か特別な意味を見出してよい歳頃はとっくに過ぎたんだと、身に染みて分かりはじめるような悲しさがあった。いやない。俺の人生がどうでもよいものになっていくのと、ハリソン山中が悪者であったのとは、全然関連のない話で、なんなら悲しくもなかった。
単に俺は、ハリソン山中を見て、しょうもないなと思っただけだ。
本当にしょぼい男だ。自分に捜査の手が伸びていることを察知したハリソン山中は、刑事を拉致して自殺を強要する。身内が殺されると警察はうるさいからお前はこれから自殺するんだとペラペラ喋る。刑事の家族を人質にして、家族を守って死ねるんだからいいじゃないかと安い脅迫をする。あまりにもしょぼい。
命だとか人生とかに深い哲学持ってますよみたいな雰囲気を醸し出しているくせに、人が驚いて死んでいく表情を見たいからカウントダウンをするふりをして突き落とすだとか、小学生レベルに浅い趣味だ。
何人も殺してるくせに露悪一ページ目みたいな殺し方をしてエクスタシーを感じられるコスパの良いやつがハリソン山中だ。エスカレートしろよ。
大体リリーフランキー演じるしょぼくれたおっさんに嗅ぎ回られて計画邪魔されそうだからあらかじめ殺しとこって勝てないから黙らせてるだけでダサいし、なにより打算的すぎる。殺人が快楽だというなら、打算でオナニーするな。まあシンプルにグロ見たいだけのシリアルキラーではつまらないのだけど。
合理的で冷酷であるキャラクター像と、狂気の快楽殺人者である描写が両方半端になっている気がする。
作中ハリソン山中によって雇われた者の手によって何人も死んでいくが、一方で自分が直接出向いて殺している場合もあって一貫していないように思える。
思い入れのある人間は直接殺したいが、そこまで関わりのない人間は適当に頼んで殺す。という解釈でいくと、サイコと冷酷どっちつかずで芯のない人間に思えてしまう。
信念が全くなくて単に殺しを楽しみたいのか、一つの信念があってそれについて無駄なことは一切しないのか、どちらかに振り切っていたら俺はハリソン山中を好きになったかも知れない。
一応その辺の掘り下げみたいなシーンはあったのだけど、よくわからなかった。ウイスキーのボトルに自我があったらどう思ってるのかなあとか言ってた。全然わからない。
よく考えるとこいつの有能描写が全然ない。邪魔者の始末がメインで詐欺の実行には関わらないため、ピンチに対して何か手を打つことも当然ない。
唯一の手柄と言えるのは成りすましの記憶が飛んだ時に備えてイヤホンを渡していたところだが、全然意外性がないし、むしろあれはうまい具合に隙を作った綾野剛が偉い。裏切りも許しているし。
やったことといえば「大きな山登るんだい!」と言ってやる流れにしたのと綾野剛に講釈垂れるぐらいだ。あと小池栄子にパワハラもしてたか。なんで偉そうなんだこいつは。不法滞在者束ねてるだけじゃねえか。デリヘル嬢気絶させてそれ死んでるよwとかイキってたら綾野剛が即蘇生させるシーンとかめちゃくちゃダサいし。
凄そうな雰囲気は出すけれど、目立ったカッコいい場面もないし、思想もよくわかんねえし、だいたいハリソン山中ってなんだ。ふざけてんのか。
真っ当にカッコいい犯罪者を期待して観てたのって俺だけなのかも知れない。みんなはどこでギャグドラマだって気づいたんだろう。やっぱり最初のクマのCGが荒いとこかな。Netflixにしては粗いなとは思ったけど。やっぱ俺って察し悪いんだな。ワイルドスピードのお話が難しくてついていけないレベルに物語読めないし。なんなんだハリソン山中とかいう存在。ハリソン山中。お前なんなんだよ。ハリソン。